M-Audio Audiophile 24/96 レビュー

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購入まで

DAコンバーターを作ったのに合わせ、テストと実用をかねて、ディジタル出力のあるサウンド・カード、あるいはオーディオ・カード(音楽制作などに使われる、高性能な音声入出力カード)を買うことにし、いくつか検討してみました。まず、うんと安いサウンドカード、例えばAOpenのCobra AW850 Deluxeなどは、3000円以下で買えて、光・同軸のディジタル入出力があり、単にDACが動作するかのテスト用には十分な感じがします。一方、アナログ入出力の質は不安なものがありますし、ディジタル出力に関しても、ドライバーに関する不安があります。高級なサウンド・カードというと、オンキョーのSE-80PCIなどがあり、値段的にも手頃ですが、同軸ディジタル出力がありません。また、できれば24ビット96KHzサンプリングに対応したものがほしい気がします。とすると、やはりオーディオ・カードということになります。あまり高価なものは問題外なので、ローエンドのオーディオ・カードで信頼性の高いもの、というとRMEのDigi96/8PAD、EchoのMIA・MIDI、M-AudioのDELTAシリーズの中のAudiophile 24/96などが考えられます。Audiophile 24/96は価格的に一番安く(2万円代前半から半ば)、アナログ入出力がRCAジャックであるなど、コンスーマー向けに一番近い感じです。ドライバーはDELTAシリーズ共通なのできちんとメインテナンスされているだろうし、スペックを見る限り部品もしっかりしているようです。MIA・MIDIはアナログ入出力がバランスであるのは大きなメリットですし、RMEのボードのディジタル入出力は定評があるようです。ということで、けっこう悩んだのですが、最終的には、あまり高級なものは必要なかろう、ということでAudiophile 24/96を買うことにしました。

ボードの構成

ボードはこんなふうになっています。

AP2496-Board
基板の上面から

基板上の主なチップは、コントローラ(DSP)がM-AudioではおなじみのIC Ensemble (現VIA)のENVY24(右下の大きなフラット・パッケージのチップ)、オーディオ・コーデック(DACとADC)がAKM(旭化成マイクロシステム)のAK4528(中央上の方の、小さなTSOPパッケージのチップ)、ディジタルオーディオ・トランシーバ(入出力)がCirrus CS8427-CS(まん中辺のSOICのチップ)、などです。他には、OPアンプがNJM5532M (5532の表面実装タイプ、左端の方に見える、小さな8ピンのSOICチップ)が4個、シャープのPC900Vというフォトカプラ(やや左下の方の6ピンのチップ)、フィリップス製の74HCT04(ロジックIC)、電源レギュレータには、STマイクロ製の7805と、リニアテクノロジーのLT1117が使われています。受動部品は、クリスタル、電解コンデンサー以外の抵抗、コンデンサー等はほとんど表面実装タイプのチップ部品です。また台湾M-TEKのディジタルオーディオ・インターフェイス用トランスD4101DA(左下)も載っています。全体に、素性のはっきりした部品を用いていて、おかしなところは見あたりません。ちなみに、ボードの製造は台湾、リビジョンはREV-A2, 2000年、となっています。

AKMのオーディオ・コーデックは音楽制作関係では定評のあるものらしく、候補に挙げたオーディオ・ボードは、どれもAKMの類似したチップを用いています。オーディオ・カードを使いたい理由のひとつは、AKMのコーデックの音を聞いてみたい、という事でした。アナログ出力は、5532によるアクティブ・フィルターを通して出力されており、オーディオ的な基準からも納得できるものです。Cirrusのトランシーバも定評のあるもので、全体に、オーディオ装置に匹敵する構成と言ってよいと思います。もちろん、ゲームのための3Dサウンドなどの機能は一切無く、MIDI音源もありません。純粋にオーディオ入出力に特化しており、DSPはミキサー機能や、パッチベイの機能の実現に用いられています。

同軸のディジタル入出力とMIDI入出力は、ブレークアウト・ケーブルを用いて接続します。

ドライバー、使い勝手

 付属のソフトウェアをインストールすると、M Audio Delta Control Panel というコントロールパネルがインストールされます。ここから各種の設定をするわけですが、(たぶん)標準的なメーター付きのミキサーパネルの他に、信号のルーティングを設定するパッチベイ、サンプリング周波数やクロックの選択をするタブなどがあります。 面白いのは、S/PDIFの設定のタブで、Consumer/Professional(つまり、AES/EBUのフォーマットにする)の設定、SCMS(コピー禁止など)の設定、エンファシスの設定などもできます。この辺は、やはりレコーディング用だからでしょう。また、ここで "Non-Audio" と設定すると、ドルビーなどのマルチチャンネル信号の出力ができるそうです(やったことはありません)。

実際の使い勝手ですが、今まで使ったかぎりでは、安定して動いています。ソフトによっては、24ビットデータ語長を設定できないことがありましたが、たぶんソフト側の問題ではないかと思います。音楽制作用としては、クロックの同期に問題が出ることがある、という話もあるようですが、私のように、音楽の入出力に使うだけ、という用途では問題にならないと思います。

測定

オープンソースのオーディオ測定ソフト、RightMark Audio Analyzerを使って測定してみました。アナログ出力と入力をつないで、ループバックでの特性を測定します。サンプリング周波数44.1KHz、データ語長16ビットと24ビットの場合の測定をしたところ、サマリーは以下のようになりました。

測定結果
Test 16-bit, 44.1KHz 24-bit, 44.1KHz
Frequency response (from 40 Hz to 15 kHz), dB: +0.02, -0.07 +0.02, -0.07
Noise level, dB (A): -95.5 -101.6
Dynamic range, dB (A): 95.1 99.9
THD, %: 0.0009 0.0008
IMD, %: 0.0087 0.0050
Stereo crosstalk, dB: -96.2 -100.2

測定結果の詳細は、ここにあります。とてもいい結果で、16ビットの場合は、量子化ノイズから決まる理論限界に近い感じです(理論限界は、98.1dB。24ビットの場合は、もちろん理論限界(約146dB)には遠く及びません)。周波数特性は、完全にフラットではありませんが、ローパス・フィルターの次数とのバランスでこの辺になったのでしょう。もちろん、全く問題ない数字と思います。ノイズ、ひずみ、クロストーク、のいずれもとてもよく管理されているように思います。DA-AD のループでSN比 (Dymanic range) が100dB もあるので、簡単な測定器代わりにも使えるレベルだと思います。帯域外ノイズについては測定できていません。周波数特性からすると十分減衰していそうですが、機会があったら測定してみようと思います。

他のサンプリング周波数の結果はここには載せてありませんが、96KHzサンプリングの場合は、むしろ測定結果は悪くなります。入出力に22KHzのローパスフィルターが入っているので、アナログ入出力で96KHzサンプリングを用いる意味は、いずれにせよあまり無いのですが、サンプリング周波数を上げることによる副作用が出るようで、ノイズ、ひずみなどが少し増えます(といっても、実用上、全く問題ないレベルですが)。アナログ入出力で使う分には、24ビット、44.1KHz(あるいは48KHz)で使うのが最も高性能のようです。 96KHzサンプリングは、ディジタルで入出力したり、多重録音をしたりするときに威力を発揮するのかもしれません。

まとめ

Audiophile 24/96 はディジタル出力を主目的にして購入したもので、アナログ入出力に関しては、あまり大きな期待をしていませんでした。結果的には、作りも測定値も期待以上で、満足しています。これより上のグレードのオーディオ・カードにはそれなりのメリットがあるのでしょうし、これ以上の性能も期待できるのかもしれません。とりあえず、このレベルならオーディオ装置につないでもおかしくないと思いますし、いろいろ遊びがいのあるアイテムです。

2003年9月20日 記.
2006年2月11日 修正.
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