CMoy Acoustic Simulator の製作

OPAmpヘッドフォンアンプNo2に合わせて、アコースティック・シミュレーターなるものを作ってみました。これも、HeadWizeのChu Moy氏の作品にならったものです。

回路

回路は、Chu Moy氏設計の回路のうち、「ハイインピーダンス型」とされている方で、ライン出力とヘッドフォンアンプの間に挟んで使うことを前提にして回路定数を選んだ物です。アコースティックシミュレーターの発想は、低域で一方のチャンネルの信号を他方のチャンネルに少し加算し、バランスを取るために元の信号の高域を少し持ち上げる、という回路です。これをCR回路で実現すると、自然に低域で一定の時間(位相)の遅れが生ずる、ということで、音場生成でもある、という筋書きになっています(効果については後述)。原理の説明については、 Chu Moy氏の記事や、Jan Meier氏の製作記事に詳しく解説されています。原理は簡単なので、定数の選び方がポイントになります。


CMoy Acoustic Simulator 回路図

SW1は、効果の強弱の切り替え、SW2は効果のオン・オフの切り替えです。この回路の一つの問題点は、信号の加算をCRだけでやっているので、効果をオフにしても低域のブーストが残る(2dBくらい)、ということですが、ヘッドフォンのバスブーストと思えば、実用上は問題ではないかもしれません(気にはなりますが)。Jan Meier氏の回路はOPアンプを用いて加算しているのでこの問題はなく、よりエレガントな方法かもしれません。今回は、アコースティック・シミュレーターとはどんな物かを知りたくて、実験のつもりで作ってみました。

部品について

実験といっても、実用性のないものを作ってもつまらないので、小型のケースに入れて、OPAmpヘッドフォンアンプと合わせて使えるように考えました。部品は、すべて秋葉原で調達しました。

部品表
部品名 型番 数量 単価 購入場所
ケース タカチHA1593-KG 1 400 千石電商
トグルスイッチ 6P小型 2 110 同上
ジャック 3.5mm ステレオ 2 50 同上
基板 秋月AE-3 1 70 秋月電子
R1~R12 KOA 1% 1/4W 金属皮膜 12 10 同上
C1,C3 松下ポリプロピレン 0.022uF 50V,1% 2 130 瀬田無線
(ラジオデパート2F)
C2,C4 松下ポリプロピレン 0.12uF 50V,1% 2 180 同上

ケースは、さらに小さなプラスチック・ケースにしました。やや特殊な部品はポリプロピレン・コンデンサーで、松下の誤差1%級の物を用いています。結果的には、ややオーバークォリティな感じで、普通のポリエステル・コンデンサーでもよかったと思います。

部品代は以上で1500円少々となります(他に配線材等)。コンデンサーを安い物にすれば、1000円くらい、という感じです。

製作

ケースに合わせて基板をカットし、なるべくコンパクトに配線を考えました。基板に部品を載せるとこんな感じです。

基板の写真
ユニバーサル基板に配線した様子

「ハイインピーダンス型」の回路定数なので、コンデンサーもそんなに大きくなく、小さくまとまりました。パネルの配線は少し大変ですが、電池も能動素子もないので、あまり深く考えず配線できます。配線材はAWG24の耐熱被覆ケーブルです。下が配線の済んだところです。

配線が終わったところの写真
パネルとの間の配線が終わった状態

ケースに組み込むとこうなります。相変わらず、ケーブルの配線がごちゃごちゃして美しくない。修行が足りません。

配線が終わった内部の写真
完成した内部の様子

フタをして、出来上がりです。

完成写真
完成!

結果

大きさは、こんな感じで、OPAmpヘッドフォンアンプNo2より、奥行きだけ短くなります。

CDと並べた写真
OPAmpヘッドフォンアンプNo.2と一緒に。手前のCDは、Peter Blegvad, "Choices Under Pressure".

肝心の、アコースティック・シミュレーターの効果ですが、一聴してびっくり、というような事はありませんでした。はじめは、オン・オフしても違いがあまり分からず、悩んでしまったくらいです。よく聞くと、低音楽器は真ん中よりに定位が変わりますし、ボーカルなども、頭の後ろの方にある感じが、すこし前の方に移動する感じです。でも、別に「音場が前方に広がる」などといった、はっきりした効果は感じられませんでした。逆に、特に音質の劣化も感じられません。たぶん、効用としては、「不自然な感じを減らす」という点にあるのではないかと思います。「長時間ヘッドフォンで聴いたときの疲れが減る」とか、「ずっとシミュレーターを入れて聞いていると、オフにすると不自然な感じがする」という意見がWEB上で見られるのも、頷けるところです。また、このような効果は、ソースによる違い、個人差も大きいのではないかと思われます。

あまり聞き込んでもいないし、はっきりしたことは言えませんが、「快適さを上げる」という効果はあるように思いますし、ヘッドフォンアンプに組み込んでも後悔はしない回路かな、というふうに思いました。反対に、一聴して劇的な効果があるわけでもないし、「高忠実度再生」という感じでもないので、メーカー製のヘッドフォンアンプに組み込まれることが少ないのも不思議ではありません。いかにもアマチュア的で、遊び心のあるガジェットです。

2003年6月4日記.
2006年2月11日修正.
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