Audio DA Converter SN-DAC0501

2台目のDAコンバーターです。間があいたので、SOICのハンダ付け の練習を兼ねて、CS8414-CS4334 という組み合わせの、とても簡単な構成の回路で作ってみました。インターネット上で結構有名らしい Project 85 と呼ばれているものとほぼ同様ですが、むしろ CS4334 の評価ボードを参考にして考えました。ローパスフィルターは一次のCRフィルターだけです。 こんな簡単な回路、ということで、小手調べのつもりだったのですが、 思わぬトラブルに悩まされました。

回路

回路図はこんな感じです。点線内は光入力(TOSLINK)の入力部ですが、後で述べるように、 現在は配線してありません。


入力部から見ていくと、同軸の S/PDIFの信号はターミネーター、カップリングコンデンサーを通してCS8414に入力されます。CS8414は、 Cristal Semicondactor (Cirrus Logic) の、「業界標準」という感じのディジタルオーディオレシーバーです。回路定数は、 データシート通りです。電源は、PLL部分とディジタル部分を、それぞれ マイクロインダクターによるデカップリングを通して供給しています。CS8414から出力された マスタークロック、シンククロック、フレームクロック、信号データが 、DAコンバーターチップの CS4334 (同じくCristal Semicondactor)に入力されます。データフォーマット はI2S です(したがって、CS8414のモード設定は M0/M1/M2/M3 が LHLL となります。補助データは何も使わないのですが、入力端子をオープンにして おくと気持ち悪いので、SEL, CS12 ともに L にしてあります)。CS4334のアナログ出力は、一次のローパスフィルターを通して出力されます。 この定数で、カットオフ周波数は35KHzくらいです (負荷インピーダンスに依存します)。電源は、8V以上のACアダプターから入力し、 3端子レギュレーター7805を通してすべてのICに供給します。 データシートをよく読むと7800シリーズの3端子レギュレーターのリップル・ リジェクションは、低電圧のものについては(デカップリング・コンデン サーを用いた)LM317に匹敵するので、今回は7805で良いことにしました(高電圧 の品種については、LM317のほうがかなり有利です)。いちおう、インダクターと コンデンサーによるノイズフィルターを挿入してあります。

今回の主役の CS4334 は、なんと8端子しかないDAコンバーターで、これだけで4倍オーバーサンプリングフィルター、 ΔΣモジュレーター(128Fs)、1Bit DAC(スイッチド・キャパシター式)、アナログフィルターを含んだ完全なDACになっています。 価格的にも性能的にも、いわゆるローエンドのオーディオ 用DACです。24Bit、96KHzまで対応していますが、性能的には16Bit+α程度のもので、 あまり多くを期待するのは無理でしょう。評価ボード に一次のローパスフィルターを用いた回路が掲載されているのも、普及品のオーディオ セットにつなぐことを想定しているからで、広帯域のアンプにつなぐ場合 はアクティブフィルターを通して出力するのが無難なようです。ディエンファシスにも 対応していますが、ディエンファシスの端子とシンククロックの端子が共 通なので、ディエンファシスを設定するためにはシンククロックは内部生成すること になります。今回はそれを嫌って、ディエンファシスには対応しないことに しました。データフォーマットはI2Sに固定されています (CS4335〜4339が異なるフォーマットに対応する兄弟チップです)。

部品

主要部品のリストです。

部品表
部品名
型番
数量
単価
購入場所
コメント
ディジタル・オーディオ・
レシーバー
CS8414-CS
1
$11.03
NewarkInOne

DAコンバーター
CS4334-BS
1
$3.20
"

3端子レギュレーター
NJM7805
1
50
秋月電子

ケース
タカチHEN110412S
1
2270
千石電商

C1,C2,C3,C6,C8,
C10,C17,C18
チップ積層セラミック
コンデンサー(X7R特性)
8
@5〜10
千石電商、
秋月電子、
Digi-Key

C4,C5,C9,C11,C16,C19
電解コンデンサー
(東信工業UTRWZ 25V100μF)
6
20
千石電商

C12,C13
三洋OSコンデンサー
(10V10μF)
2
40
"

C14,C15
チップフィルムコンデンサー
松下ECHU1C103JB5
2
100/10
鈴商
PPSフィルム 0.01μF
TOSLINK
レシーバーモジュール
東芝TORX179
1
300
千石電商
(使用せず)
R1,R3,R4,R5,R6,R7,R8,R9
チップ抵抗器
8
@5
"
各種10ヶ50円
L1,L2,L3,L4,L5
マイクロインダクター
47μH, 220μH
5
40
"

放熱器
水谷電機工業 SP111K 1
60
"

RCAピンジャック

3
150
"

2.1mmDCジャック
マル信無線電機 MJ−14 1
70
"

照光式スイッチ
ミヤマ電器 DS-850K-S-LY
(BLACK)
1
150
"

ユニバーサル基板
AE-3G(72x48mm) 1
100
秋月電子
ガラスエポキシ・スルーホール

その他、ピン、ヘッダー、線類、シール基板、などの小物部品があります。 これらも、それぞれ結構高いのですが、一回買うとなかなか無くならないので、 リストには入れませんでした。

この中で、なんと言っても入手が難しいのは CS8414 と CS4334 でしょう。CS8414 は、共立電子などで (2005年2月現在) 2100円で買えるようです。しばらく前には、 3800円と大変割高だったので、Newark In One から取り寄せました。しかし、Newark In One は外国に送る場合は$250以上の 注文になりますし、Digi-Keyに比べるとなかなか不便でした(在庫ありで注文したら在庫切れとなり、 その変更のやりとりも大変でした。結局、商品が届くまでに2ヶ月くらいかかりまし た。そのあげく送料もFedExで$62もかかり、もう頼みたくない感じです)。 まとめ買いをしたので、CS4334もいっしょに買いました。これも、共立電子で扱っているようです。 ちなみに、どちらもSOIC(1.28mmピッチの表面実装IC)です。

コンデンサーについてですが、データシートを読んでいて分かったことは、高周波部はチップ 積層セラミックというのが定石らしい、ということです。特にPLLのループ・フィルターは、 リード線のインダクタンスが問題になるので、チップ部品を用いて最短のパターンで配線するよう 指示されています。入力のカップリング・コンデンサー、電源のバイパス・コンデンサーも、 当然チップ部品が望ましいようです。また、セラミック・コンデンサーは温度特性によって分類さ れ、特性が大きく異なります。温度補償特性のもの(CH, NP0,C0Gなど)は、容量の電圧依存性(つまり、 ひずみ特性ですね)、熱依存性ともに優れ、オーディオ用にも使える一方、強誘電性のZ特性、 F特性のものは電源のパスコン以外には使えないようです(電圧依存性、熱特性ともにかなり劣り、 そのため許容差も+20%,-80%などとなります)。X7R特性,B特性はその中間の高誘電率特性品種で、 オーディオ用には使えないまでも、許容差も±10%程度で、PLLフィルターなどには使えるようです。 今回は、高周波部分、ディジタル部分のコンデンサーは(電解コンデンサーを除いて)すべてX7R特性、 0805サイズ(2.0x1.25mm)のチップ積層セラミックを使いました。68000pFのものだけは、 秋葉原で入手できなかったのでDigi-Keyから取り寄せました。

電解コンデンサーは、(いつものように)千石電商で取り扱っている105℃の低ESR品です。 出力コンデンサーはOSコンです(特に意味はないのですが)。ローパス・フィルターのコンデンサーは、 当初8200pFのスチロール・コンデンサーを用いていたのですが、後述のようにチップフィルム・ コンデンサーに変更しました。これは、鈴商でたまたま安価に入手できたPPSフィルムの0.01μFです。

抵抗器は、(LED用のカーボン抵抗以外)すべて1/10W、5%級のチップ抵抗です。 これも、サイズは0805で揃えました。

基板については、最初はもう一回り大きいものを用いる予定だったのですが、設計しているうちに 小さくてもよいような気がして、47x72mmのサイズの小型基板にすべての部品を載せました。 結果的には、ちょっと小さく組みすぎた感じがします。チップ部品を両面に載せるために、 ガラスエポキシのスルーホール基板を選びました。これは結構便利です。 SOICを実装するのにはサンハヤトの シール基板(ICB-051とICB-060)を用いました。

ケースは、今回もタカチのHENシリーズのHEN110412(111.5x43.6x120mm)です。小型のケースですが、 今回の基板には大きすぎるくらいです。外見は、なかなかキュートです。

製作

完成した基板は、こんな感じです。シール基板を用いてSOICを接続し ていますが、そのまま貼り付けると左右の端子間の間隔が足りないので、二つに切り、 1ドット分(2.54mm)だけ離して貼り付けました。サンハヤトの専用接着剤を用いたのですが、 やや強度不な感じがします。NJM7805は、ほとんど発熱はしないのですが、念のため 小さなプレート形放熱器を介して取り付けています。

こちら側から見ると、左側からディジタル信号が入力され、28ピンのCS8414を経て 手前に見える小さな8ピンのCS4334につながります。CS4334でアナログに 変換された信号は、OSコンでカップリングされて一次のローパスフィルターに入り、 右端から出力されます。ローパスフィルターは、すべてチップ部品で、 裏面に実装されています。当初は、スチロール・コンデンサーが乗っていました。 部品が傾いて取り付けれているのは、不器用なせいもありますが、所によっては 部品を近づけすぎて傾いてしまったものもあります。

こちら側の手前左側が電源部です。左手前のメタルスペーサーへのビニール線で シャーシ・アースを取っています。中央手前に見える100μFの電解コンデンサーが レギュレーターの出力コンデンサーですが、当初は2200μFでした。手前右側の ピンはLEDへの接続用です。基板裏面に実装したカーボン抵抗が見えています。 本来上側に載せる予定だったのですが、手違いでこうなりました。

上から見たところです。CS8414 から CS4334への配線をビニール線(0.32mm単線)を用いているのが よく分かります。見にくいのですが、黄色の線の下あたりに、PLLフィルターの部品があります。 CS8414 の右に、電源バイパスの0.1μFと、入力カップリングの0.01μFが見えます。CS8414 がすこし曲がって付いているのは、ハンダ付け位置がずれているのではなく、シール基板の 貼り付け位置がずれているせいです(反省点です)。

裏面は、銅箔テープを用いてアースやVccの配線をしているのですが、ハンダ付けがかなり 汚い感じです。左下のあたりがDAコンバーターの出力(ローパス・フィルター、等)です。 フィルム・チップコンデンサーは熱に弱いので、おっかなびっくりハンダ付けをしましたが、 どうにか大丈夫のようです。もう少し余裕のある配置にした方が良かった感じがします。 コンパクトな方が電気的に有利な感じもしますが、ディジタル、高周波回路と低周波アナログが 混在していると、飛び込みによる発振、ノイズも気になります。プリント基板を用いて、 アース面を十分取ればいいのだろう、とは思いますが。

ケースに納めるとこんな感じで、まだずいぶん余裕があります。左下にTOSLINKの受信部が 付く予定だった(実際付けた)のですが、今は穴だけあって付いていません。配線途中で AWG24の黒のワイヤーがなくなってしまい白で代用したので、アース配線が白になっている 部分があります(出力と電源入力部)。

思わぬトラブル

完成して、配線をチェックした後、PCのオーディオ・ボードのディジタル出力につないで 音を出してみると、ふたつトラブルがありました。ひとつはパイロット・ランプが点かない ことで、これは単純なミスでした(配線し直して、抵抗が基板の下になってしまいました)。 もうひとつは、(音は出たのですが)不規則なノイズがつきまとうことでした。 それほどレベルは高くないのですが、間歇的に、ザーッとか、ブツブツ、という ノイズが入ります。測定しても、ノイズが入ったところだけおかしな値になり、 不安定で測定になりません。というわけで、トラブル・シューティングをすることになりました。

最初に疑ったのは電源レギュレーターの発振でした(後から考えれば、7805がそんなに 簡単に発振するはずもないのですが)。2200μFも出力コンデンサーを入れたのがいけないか と思い、まず完全に取り外して、そのあと100μFに交換しました。しかし、状況は全く 変わりません(別に電源ノイズも増えませんでしたが)。次に疑ったのは、ディジタル回路部からの アナログ回路への飛びつきによるノイズ、とくにローパス・フィルターの(やや大きな) スチロール・コンデンサーへの飛びつきでした。そこで、スチロール・コンデンサーを取り外して、 チップのフィルム・コンデンサーに交換しました。これも、全く効果がありませんでした (ちなみに、スルーホール基板の部品交換は、結構大変で苦労しました)。次に、電気的に 浮いていたレギュレーターの放熱器からノイズが乗っている可能性を疑い、 放熱器を接地しましたが、これも効果無し。

もう、さじを投げようかと思っていたところで、思いついて光入力のコネクターをはずして、 ジャンパーに置き換えました。すると、あれほど悩まされたノイズがすっきり消えました。 (私にとっては)意外なことに、光入力部分からノイズが混入していたのです。レシーバーの部品が 何らかの理由で(たぶん私の取り扱いミス、もしかしたら初期不良で)壊れたのか、 配線をのばしすぎたのか、何らかの理由で発振したのか、そこまでは追求していません (いずれ追求する必要がありますが)。とりあえず同軸でちゃんと動くようになったし、 同軸でしか使わないので、ひとまず完成としました。


これが、トラブルの元となった光入力部

結果

トラブルが(いちおう)解決したので、シールを用いて文字入れをし、完成です。



背面には、光入力用の穴が空いたままです(いずれ、取り付ける予定)

動作チェックのために、M-Audio の Audiophile2496RMAA を用いて測定しました。測定結果は以下の通りです:

ローエンドのDACにしては、まずまずの結果です。ノイズレベル、ダイナミックレンジは、 24ビット入力の場合で98dB程度と、16ビットの理論限界程度で、16ビット程度の精度は あることが分かります。16ビット入力の場合は当然少し悪くなりますが、AP2496とあまり 変わりませんから、問題のない値です。96KHzに設定すると、データは悪化します。

高域の減衰が少し早い感じに見えますが、20kHzで-2dBですから、実用上問題になる値では ありません(WE310A-WE300Bの、いわゆるWE-91Bタイプのシングル・アンプの高域の減衰は、 こんなレベルではありません)。これは、一次のローパス・フィルターを用いているためで、 高次のフィルターを用いると、同じカットオフ周波数でも帯域内のリップルは小さく なります。今回は測定できていない帯域外ノイズも気になりますし、せめて2次 のフィルターにしたい感じがします。クロストークは、アクティブ・フィルター段が ないこともあり、わりと優秀です(この測定系では限界に近い)。全体としてみると、 1台目のDACに比べても、そこそこに良い特性のようです。

まとめ

意外なトラブルはありましたが、それ以外は製作に時間のかからないDACでした。 PCと、TDA1552Qのアンプにつないで、音を出していますが、 問題なく動作しています。実用上いちばん気になるのは帯域外ノイズの問題で、 ちょっと、高価なアンプ、スピーカーにつなぐ気にはなれません。気楽に使うには、 見栄えも良く、コンパクトで安上がりなDACです。製作のノウハウもいろいろ分かってきて、 一台目よりは「まとも」になった感じがします。

反省点も多々ありますが、いろいろ試せて楽しい試作でした。

2005年2月17日 記.
2006年2月14日 修正.
Copyrighted by the author.