Headphone Amplifier SN-HPA0502

これまで作ってきたOPアンプ一個のヘッドフォンアンプでは、Sennheiser HD600の能力を出し切れていないのではないか、と考え、もう少しオーディオ機器 らしい物を作る事にしました。とはいっても、ディスクリート部品による アンプではなく、OPアンプにバッファーを追加して出力段の電流供給能力を 上げただけです。OPアンプから見ると負荷が軽くなるので、歪み等の特性向上も 期待できます。

回路

回路は以下の様になりました。


回路図. クリックして100%画像が開きます

基本的にはOPアンプによる非反転の増幅回路で、TIのBUF634Pというバッ ファーを負帰還ループの中に入れ、OPアンプの負荷を軽くし、電流供給能力を 上げています。ゲインは11倍で、直流が出ているような機器はつながないと 思うので、入力のカップリング・コンデンサーは省略しました。ここでは、 OPアンプにはTIのOPA134を用いてますが、FET入力のシングルOPアンプなら、 ほとんどのものが使えるだろうと思います。ほかの候補としては、OPA604、AD711、 あるいは高価なOPA627などが考えられます。ちょっと古いですが、入手しや すい TL071,LF411などもいいかも知れません。もちろん、負帰還ループ内に バッファーが入っているので、安定性については実装してみないと分かりませんが、 回路の変更は不要のはずです。バッファーのBUF634は2段コンプリメンタリー・ エミッター・フォロワーのICで、250mAの電流供給能力と150MHz以上の帯域を 持ちます。ここでは、1ピンを4ピンにつないで、広帯域(アイドリング電流大)に 設定して使っています。BUF634の代替としては、AD811のボルテージ・フォロワー なども考えられますが、多少回路も変わりますし電流帰還アンプなので注意が 必要のようです。それならむしろ、AD811だけで作ってみる方が面白いかも 知れません。

電源部は、24ボルトのACアダプターを用いる事にしました。簡単なLCフィルターを 経て、定番の電圧可変型3端子レギュレーターの317で安定化します。 電源電圧の中点をTIのレール・スプリッターTLE2426で出して、仮想アースと しています。抵抗とコンデンサーだけによる分割よりは、特に低周波域 での性能の向上が期待できます。TLE2426については、8端子型のもの (TLE2426CPなど)だとフィルター・コンデンサーが追加できてより低ノイズに なりますが、今回は3端子型のものしか入手できませんでした。電源電圧は、 だいたい±10Vです。

出力段には、容量性負荷に対する位相補正として、数十Ω程度の抵抗か、抵抗と インダクターを並列にしたものを入れるべきだと思いますが、今回は入ってい ません。この辺は、将来の課題とします。また、回路図には書いてありませんが、 ヘッドフォンをつないでいないときは、出力はラインに出るように配線しました。

部品

主要部品は以下のようになります。ほかに、ケーブルや基板コネクター、ICソケット などの小物部品がありますが省略します。金額的には、ケース、ボリューム、ツマミ、 ジャックなどの機構部品がやはり高く、総計4500円程度です。ICを含めた電子部品は 総計3000円程度です。そのうち、OPアンプとバッファーがやや高価で、合わせて2000円 程度を占めています。ACアダプターや小物を加えて、部品代総計は9000円程度と思われます。

部品表
部品名
型番
数量
単価
購入場所
コメント
ケース
タカチ HEN110412S 1
2270
千石電商

ユニバーサル基板
秋月片面ガラスエポキシ
Cタイプ
1
70
秋月電子
71×47mm
VR1
アルプス ミニデテント
ボリューム 10KΩ2連
1
800
鈴蘭堂

照光式スイッチ
ミヤマ電器 
DS−850K−S−LY
(BLACK)
1
150
千石電商
赤LED内蔵
ツマミ

1
700
鈴蘭堂
メタルφ25mm
RCAジャック
RJ-2008AT
4
120
秋月電子
赤、白、各2
φ6.3ステレオジャック

1
110
千石電商
スイッチ付き
BOX型
φ2.5 DCジャック
マル信無線電気 MJ-15
1
70
同上

C1-C8
積層セラミック 0.1μF
8
10円前後
Digi-key
0805サイズ、
X7R特性
C11-C18
OSコン、10μF 10V
8
40
千石電商
C19-C23
電解コンデンサー、各種
5
30〜60
同上
R1〜R6
1/10Wチップ抵抗
(金属皮膜)
6
5〜10
千石電商等
0805サイズ、
松下、コーア
R7,R8
1/4W金属皮膜抵抗
2
20
千石電商 1%級
R9-R10
1/4Wカーボン抵抗
2
100/100
同上 5%級
U1,U2
TIOPA134AP
2
265
Digi-Key
U3,U4
TIBUF634P
2
718
同上
U5
TITLE2426CLP
1
153
同上
U6
NJM317F
1
70
秋月電子
D1,D2
1N4007
2
100/20
同上

L1, L2
マイクロインダクター
47μF
2
40
千石電商

放熱器
水谷 SP111K
1
60
同上
小型プレート型
ACアダプター
24V 0.5A
1
650
秋月電子

この中でやや入手しにくいのは BUF634 と TLE2426ですが、Digi-Keyで扱っています。 OPA134Pは若松や共立でも扱っているようです。電源のパスコンには、X7R特性の 積層セラミック・コンデンサーと(やや贅沢ですが)OSコンを用いています。他は、特に 変わった部品はありません。電解コンデンサーは、ふだんは低ESR品を用いるのですが、 1000μFは在庫がなかったので、一般品を用いています(東通工の低ESR品はカバーが 茶色だけど、一般品は黒色)。

外見と使い勝手を左右するのは、ケースやボリューム、ツマミなどなので、すこし 高価ですが、タカチの放熱ケースHENシリーズと、アルプスのデテントボリューム、 メタルツマミ、などを用いています。

製作

最初に基板を作りました。71mm×47mmの小型のユニバーサル基板に配線しました。 やや窮屈ですが、特に製作が困難というほどではありません。左側が入力端子で、 中央向こう側に出力端子があります。その右側にLED出力、電源入力の端子を 配置しました。中央の電解コンデンサーの右の、トランジスターのように見え る3端子の部品がTLE2426です。ICソケットの周りに林立している青いコンデンサー はOSコンです。

配線面では、いつものように銅箔シートを用いてアースと電源のバスとしています。 入力から電源部に向かって、一直線にアースラインを伸ばし、増幅段ごとにアースを 銅箔シートでまとめる形になっています。

右側が増幅部で、チップ抵抗やチップコンデンサーが見えます。もちろん、 ICの電源パスコンは、最短距離で配線してあります。負帰還回路も、チップ部品なので かなりコンパクトにまとまりました。

赤と青のジャンパーは電源の配線です。信号線のジャンパーは部品面、電源のジャンパーは 配線面と分けることにしました。

ケースの穴あけ、部品取り付けをして、配線を終えた所が次の写真です。小さなケース なので、配線の順番を考えないと、うまくハンダ付けができません。ボリュームの辺りは、 クリアランスがあまりありませんが、大丈夫のようです。

ヘッドフォンジャックは、今回は6.3mmのスイッチ付きを使い、ヘッドフォンを挿して いないときはリアパネルのRCAジャックに出力されるように配線しました。ヘッドフォンを 挿しているときは、リアの出力は開放になります。最初は、ジャックの配線がよく 分からなかったのですが、試行錯誤の結果、どうにか配線できました。

配線の取り回しは、あまりきれいにできませんでした。シールド線を使うのが嫌いなので、 信号線はアースと縒って配線し、なるべく配線間の干渉が少ないように気を付けて 配線するのですが、配線間の飛びつきで、クロストークなどがやや劣化しているかも 知れません。最低限、入力側と出力側は離して配線します。アースは、フォン・ジャックの アース側が接地してしまうので、ここを一点アースとしています。

レーザープリンター・ラベルを用いて文字入れをして、ひとまず、これで完成です。



もし試作に興味があれば、以下のファイルも参考になるかも知れません。
(1) 真上から見た写真
(2) 基板の設計メモ(こんなものを書いてから配線しました): 部品面 配線面
(3) パネルの図面 (これを透明なシートに プリントして貼りました。PDFファイルです) 

測定結果

配線をチェックし、電源を入れて各部の電圧をチェックします。特に問題は ありませんでした。出力のオフセット電圧は、それぞれ 1mVと 2mV でした。OPアンプを選別したり、OPA627BPのようなオフセットの小さなICを 用いればもっと小さくできますが、特に問題ないと思うので、そのまま にしています。

最初は、フォン・ジャックの配線がよく分からず音が出なかったのですが、 それが解決してからはノートラブルで、ノイズ等の問題もありません でした。

オーディオカード M-Audio Audiophile 2496 と RMAA を用いて測定した結果が、次のものです。

RMAAによる測定結果 (24ビット、44.1KHz)

ほとんど何を測定しているのか分からない値です。実は、最初測定したときは、ノイズが 盛大に(と言っても-85dBくらい)出て、いったいどうしたのかと思ったのですが、 信号ケーブルが100Vの電源のケーブルと近づいてノイズを拾ったようです(PCの近くで、 適当に置いて測定しているので)。ケーブルの取り回しを変えて、この様な値になったの ですが、まだケーブルからのノイズの飛び込みがあるのではないかと思います。歪みに ついては、ほとんどがDA/AD変換部の歪みのようで、ループバックとあまり変わりません。 周波数特性については(当然ですが)測定系そのままです。クロストークについては、 内部配線で干渉しているのかも知れません。多少気になったのは、このサマリーでは 見えませんが、ボリュームのギャングエラーが多少あり、(ゲイン1に絞った状態で)左右の ゲインが0.5dBほどずれていた事ですが、実用上は気になりません。

まとめ

それなりの回路をコンパクトなケースに組み込んで、実用的にも面白いアンプになった ように思います。私にしては贅沢な部品を使ったのですが、それでも材料費は1万円以下 で、いい線かと思います。

音に関しては、あまり自信を持って言える事はないのですが、Sennheiser HD600 と PX200をつないで聴き比べると、以前より大きな差を感じるように思います(このふたつ は、さすがにはっきり違いが分かります)。HD600の能力を、以前より引き出している のかも知れません。特に低域が変わったような気がしますが、電流供給能力が上がった、 と言う先入観からそう思うのかも知れません。

なんにせよ、HD600で音楽を聴くのが楽しくなりました。


2005年9月22日 記.
2006年2月19日 修正.
Copyrighted by the author.