これまで作ってきたOPアンプ一個のヘッドフォンアンプでは、Sennheiser HD600の能力を出し切れていないのではないか、と考え、もう少しオーディオ機器 らしい物を作る事にしました。とはいっても、ディスクリート部品による アンプではなく、OPアンプにバッファーを追加して出力段の電流供給能力を 上げただけです。OPアンプから見ると負荷が軽くなるので、歪み等の特性向上も 期待できます。
回路は以下の様になりました。
基本的にはOPアンプによる非反転の増幅回路で、TIのBUF634Pというバッ ファーを負帰還ループの中に入れ、OPアンプの負荷を軽くし、電流供給能力を 上げています。ゲインは11倍で、直流が出ているような機器はつながないと 思うので、入力のカップリング・コンデンサーは省略しました。ここでは、 OPアンプにはTIのOPA134を用いてますが、FET入力のシングルOPアンプなら、 ほとんどのものが使えるだろうと思います。ほかの候補としては、OPA604、AD711、 あるいは高価なOPA627などが考えられます。ちょっと古いですが、入手しや すい TL071,LF411などもいいかも知れません。もちろん、負帰還ループ内に バッファーが入っているので、安定性については実装してみないと分かりませんが、 回路の変更は不要のはずです。バッファーのBUF634は2段コンプリメンタリー・ エミッター・フォロワーのICで、250mAの電流供給能力と150MHz以上の帯域を 持ちます。ここでは、1ピンを4ピンにつないで、広帯域(アイドリング電流大)に 設定して使っています。BUF634の代替としては、AD811のボルテージ・フォロワー なども考えられますが、多少回路も変わりますし電流帰還アンプなので注意が 必要のようです。それならむしろ、AD811だけで作ってみる方が面白いかも 知れません。
電源部は、24ボルトのACアダプターを用いる事にしました。簡単なLCフィルターを 経て、定番の電圧可変型3端子レギュレーターの317で安定化します。 電源電圧の中点をTIのレール・スプリッターTLE2426で出して、仮想アースと しています。抵抗とコンデンサーだけによる分割よりは、特に低周波域 での性能の向上が期待できます。TLE2426については、8端子型のもの (TLE2426CPなど)だとフィルター・コンデンサーが追加できてより低ノイズに なりますが、今回は3端子型のものしか入手できませんでした。電源電圧は、 だいたい±10Vです。
出力段には、容量性負荷に対する位相補正として、数十Ω程度の抵抗か、抵抗と インダクターを並列にしたものを入れるべきだと思いますが、今回は入ってい ません。この辺は、将来の課題とします。また、回路図には書いてありませんが、 ヘッドフォンをつないでいないときは、出力はラインに出るように配線しました。
主要部品は以下のようになります。ほかに、ケーブルや基板コネクター、ICソケット などの小物部品がありますが省略します。金額的には、ケース、ボリューム、ツマミ、 ジャックなどの機構部品がやはり高く、総計4500円程度です。ICを含めた電子部品は 総計3000円程度です。そのうち、OPアンプとバッファーがやや高価で、合わせて2000円 程度を占めています。ACアダプターや小物を加えて、部品代総計は9000円程度と思われます。
部品名 |
型番 |
数量 |
単価 |
購入場所 |
コメント |
---|---|---|---|---|---|
ケース |
タカチ HEN110412S | 1 |
2270 |
千石電商 |
|
ユニバーサル基板 |
秋月片面ガラスエポキシ Cタイプ |
1 |
70 |
秋月電子 |
71×47mm |
VR1 |
アルプス ミニデテント ボリューム 10KΩ2連 |
1 |
800 |
鈴蘭堂 |
|
照光式スイッチ |
ミヤマ電器 DS−850K−S−LY (BLACK) |
1 |
150 |
千石電商 |
赤LED内蔵 |
ツマミ |
1 |
700 |
鈴蘭堂 |
メタルφ25mm |
|
RCAジャック |
RJ-2008AT |
4 |
120 |
秋月電子 |
赤、白、各2 |
φ6.3ステレオジャック |
1 |
110 |
千石電商 |
スイッチ付き BOX型 |
|
φ2.5 DCジャック |
マル信無線電気 MJ-15 |
1 |
70 |
同上 |
|
C1-C8 |
積層セラミック 0.1μF |
8 |
10円前後 |
Digi-key |
0805サイズ、 X7R特性 |
C11-C18 |
OSコン、10μF 10V |
8 |
40 |
千石電商 | |
C19-C23 |
電解コンデンサー、各種 |
5 |
30〜60 |
同上 | |
R1〜R6 |
1/10Wチップ抵抗 (金属皮膜) |
6 |
5〜10 |
千石電商等 |
0805サイズ、 松下、コーア |
R7,R8 |
1/4W金属皮膜抵抗 |
2 |
20 |
千石電商 | 1%級 |
R9-R10 |
1/4Wカーボン抵抗 |
2 |
100/100 |
同上 | 5%級 |
U1,U2 |
TIOPA134AP |
2 |
265 |
Digi-Key | |
U3,U4 |
TIBUF634P |
2 |
718 |
同上 | |
U5 |
TITLE2426CLP |
1 |
153 |
同上 | |
U6 |
NJM317F |
1 |
70 |
秋月電子 | |
D1,D2 |
1N4007 |
2 |
100/20 |
同上 |
|
L1, L2 |
マイクロインダクター 47μF |
2 |
40 |
千石電商 |
|
放熱器 |
水谷 SP111K |
1 |
60 |
同上 |
小型プレート型 |
ACアダプター |
24V 0.5A |
1 |
650 |
秋月電子 |
この中でやや入手しにくいのは BUF634 と TLE2426ですが、Digi-Keyで扱っています。 OPA134Pは若松や共立でも扱っているようです。電源のパスコンには、X7R特性の 積層セラミック・コンデンサーと(やや贅沢ですが)OSコンを用いています。他は、特に 変わった部品はありません。電解コンデンサーは、ふだんは低ESR品を用いるのですが、 1000μFは在庫がなかったので、一般品を用いています(東通工の低ESR品はカバーが 茶色だけど、一般品は黒色)。
外見と使い勝手を左右するのは、ケースやボリューム、ツマミなどなので、すこし 高価ですが、タカチの放熱ケースHENシリーズと、アルプスのデテントボリューム、 メタルツマミ、などを用いています。
最初に基板を作りました。71mm×47mmの小型のユニバーサル基板に配線しました。 やや窮屈ですが、特に製作が困難というほどではありません。左側が入力端子で、 中央向こう側に出力端子があります。その右側にLED出力、電源入力の端子を 配置しました。中央の電解コンデンサーの右の、トランジスターのように見え る3端子の部品がTLE2426です。ICソケットの周りに林立している青いコンデンサー はOSコンです。
配線面では、いつものように銅箔シートを用いてアースと電源のバスとしています。 入力から電源部に向かって、一直線にアースラインを伸ばし、増幅段ごとにアースを 銅箔シートでまとめる形になっています。
右側が増幅部で、チップ抵抗やチップコンデンサーが見えます。もちろん、 ICの電源パスコンは、最短距離で配線してあります。負帰還回路も、チップ部品なので かなりコンパクトにまとまりました。
赤と青のジャンパーは電源の配線です。信号線のジャンパーは部品面、電源のジャンパーは 配線面と分けることにしました。
ケースの穴あけ、部品取り付けをして、配線を終えた所が次の写真です。小さなケース なので、配線の順番を考えないと、うまくハンダ付けができません。ボリュームの辺りは、 クリアランスがあまりありませんが、大丈夫のようです。
ヘッドフォンジャックは、今回は6.3mmのスイッチ付きを使い、ヘッドフォンを挿して いないときはリアパネルのRCAジャックに出力されるように配線しました。ヘッドフォンを 挿しているときは、リアの出力は開放になります。最初は、ジャックの配線がよく 分からなかったのですが、試行錯誤の結果、どうにか配線できました。
配線の取り回しは、あまりきれいにできませんでした。シールド線を使うのが嫌いなので、 信号線はアースと縒って配線し、なるべく配線間の干渉が少ないように気を付けて 配線するのですが、配線間の飛びつきで、クロストークなどがやや劣化しているかも 知れません。最低限、入力側と出力側は離して配線します。アースは、フォン・ジャックの アース側が接地してしまうので、ここを一点アースとしています。
レーザープリンター・ラベルを用いて文字入れをして、ひとまず、これで完成です。
もし試作に興味があれば、以下のファイルも参考になるかも知れません。
(1) 真上から見た写真
(2) 基板の設計メモ(こんなものを書いてから配線しました):
部品面 配線面
(3) パネルの図面 (これを透明なシートに
プリントして貼りました。PDFファイルです)
配線をチェックし、電源を入れて各部の電圧をチェックします。特に問題は ありませんでした。出力のオフセット電圧は、それぞれ 1mVと 2mV でした。OPアンプを選別したり、OPA627BPのようなオフセットの小さなICを 用いればもっと小さくできますが、特に問題ないと思うので、そのまま にしています。
最初は、フォン・ジャックの配線がよく分からず音が出なかったのですが、 それが解決してからはノートラブルで、ノイズ等の問題もありません でした。
オーディオカード M-Audio Audiophile 2496 と RMAA を用いて測定した結果が、次のものです。
RMAAによる測定結果 (24ビット、44.1KHz)
ほとんど何を測定しているのか分からない値です。実は、最初測定したときは、ノイズが 盛大に(と言っても-85dBくらい)出て、いったいどうしたのかと思ったのですが、 信号ケーブルが100Vの電源のケーブルと近づいてノイズを拾ったようです(PCの近くで、 適当に置いて測定しているので)。ケーブルの取り回しを変えて、この様な値になったの ですが、まだケーブルからのノイズの飛び込みがあるのではないかと思います。歪みに ついては、ほとんどがDA/AD変換部の歪みのようで、ループバックとあまり変わりません。 周波数特性については(当然ですが)測定系そのままです。クロストークについては、 内部配線で干渉しているのかも知れません。多少気になったのは、このサマリーでは 見えませんが、ボリュームのギャングエラーが多少あり、(ゲイン1に絞った状態で)左右の ゲインが0.5dBほどずれていた事ですが、実用上は気になりません。
それなりの回路をコンパクトなケースに組み込んで、実用的にも面白いアンプになった ように思います。私にしては贅沢な部品を使ったのですが、それでも材料費は1万円以下 で、いい線かと思います。
音に関しては、あまり自信を持って言える事はないのですが、Sennheiser HD600 と PX200をつないで聴き比べると、以前より大きな差を感じるように思います(このふたつ は、さすがにはっきり違いが分かります)。HD600の能力を、以前より引き出している のかも知れません。特に低域が変わったような気がしますが、電流供給能力が上がった、 と言う先入観からそう思うのかも知れません。
なんにせよ、HD600で音楽を聴くのが楽しくなりました。