Philips TDA1552Q IC パワーアンプ

一部の真空管アンプ自作ファンの間で話題になっていた、 Philipsのカーステレオ用 パワーIC TDA1552Qを使ったステレオアンプを作ってみました。電源はACアダプターとして、 手軽に小型のアンプを作ってみよう、というアイデアです。実用性を重視し、 入力セレクター、ボリューム付きで、そこそこに外見も見栄えのするものを目指し ました。

回路

回路は、ほとんど悩む部分は無く、単にデータ シートに従うだけです。


TDA1543Qパワーアンプ・回路図

2系統の入力切り替えの後、10Kオームの2連ボリューム調整を通ってTDA1552Qに 入力され、内部でBTL接続されてスピーカー端子に出力されます。単電源なので、 出力には、ほぼ電源電圧の1/2の直流電圧が出ることになります。この辺はいかにも カーステレオ用、という感じがしますが、たかだか8ボルト以下なので危険性は ないはずです。(ショートした場合は、もちろん安全装置が働くはずです。)強いて 特徴的なところを上げれば、電源の入力部分にインダクター(トロイドコイル)を入れた こと、バイパスコンデンサーを積層セラミックコンデンサー、OSコンデンサー、 電解コンデンサーの3種の並列にしたことくらいですが、これもインターネット上で 見つけた作例を参考にしたもので、電源インピーダンスを下げるための標準的な 考慮かと思います。TDA1552Qの11ピンにつながっている時定数は電源オン時のミュート 回路で、これも作例に倣いました。出力部分に、高域補正用の回路が全くないのです が、これはデータシート通りです。普通、この手のパワーICは、やや強めの高域補正を 付けるのが普通なので、例外的に思われます。内部回路を知りたいところですが、 公表されていないようです。なんにせよ、極めて外付け部品の少ないパワーICで、 しかも1チップで2チャンネル内蔵しています。

部品について

キーパーツは言うまでもなくTDA1552Qなのですが、これはあまり入手しやすくない ようです。私は、共立電子から 通信販売で購入しました。他の部品は、すべて秋葉原で購入しました。

部品表
部品名 型番、仕様 数量 単価 購入場所 コメント
IC1 Philips TDA1552Q 1 800 共立電子
C3, C6, C10 2200uF 25V 3 70 千石電商
C9 220uF 25V 1 20 同上
C4, C6 10u F 25V (OSコン) 2 80 同上
C1, C2 0.47uF 50V (マイラー) 2 40 同上
R1 10k 1/2 W カーボン 1 5 同上
R2 6.8k 1/4W カーボン 1 1 同上 100本で100円
D1 日本インター 10E1 1 20 同上 なんでもよい
D2 ブラケット入り、赤LED 1 100 同上
ケース タカチ UC-17-5-12DD 1 2070 同上 ブロンズアルマイト
SW1 6Pトグルスイッチ 1 120 同上
SW2 3Pトグルスイッチ 1 110 同上
ジョンソン・ターミナル 赤、青 4 120 同上
RCAジャック 絶縁型、赤、黄 4 150 同上
電源ジャック 2.1mm 1 70 同上
ミニデテントボリューム アルプス、10K (A) 2連 1 800 鈴蘭堂
ツマミ 25mm メタル 1 450 同上
トロイドコイル TDK, 40uH, 3A 1 200 鈴商
ACアダプター 秋月 M-27, 15V 1.6A 1 1200 秋月電子 24W級

そのほか、ねじ類、ワイヤー、スペーサー、放熱シート、ラグ板、等の小物は 省略しました。以上の総計は、7200円ほどになります。小物も入れて、8000円くらい の見当でしょうか。値段の高いものは、IC以外は、ケース、ボリューム、ツマミ、 ACアダプターなどです。もちろん、ケース、ツマミは見栄えを良くするためにやや 高価なものを用いたのですが、作ってみて、自分はあまりブロンズは好みでない ことに気付いてしまいました。ボリュームは、アルプスのミニデテントです。 これは連動誤差、感触ともに定評のあるもので、価格だけのことは あるように思います。あとは、すべて一般品で特別なものは用いていません。OSコンは 高域インピーダンスを下げるために選んだもので、オーディオ用の銅リード品では ありません。

製作

出来上がった内部はこんな感じです。

シャーシの内部
完成したシャーシの内部

部品点数が少ないので、ユニバーサル基板はやめて、6Pのラグ板を電源部、 アンプ部にそれぞれ一枚づつ使いました。スペースとしては、まだ少し余裕がある感じ です。入力端子から入力切り替えまではシールド線を用いましたが、慣れていないので 処理が汚くなってしまいました。それから、ICまわりの配線がきれいに出来なかったの も悔いの残るところです(写真ではあまりよく分かりませんが)。基板を使わない場合 は、ICのリードは伸ばして切り揃え、リードへの配線は錫メッキ線でからげる感じに 配線するのが良いようです。今回はスピーカーへの配線はAWG20のより線を用いて いますが、予備ハンダをしてもきれいには仕上がりませんでした。それ以外の、もっと 細かいところはより線では無理でした(もちろん、私の技術では、と言うことですが)。

電源のバイパスの積層セラミックコンデンサーは、ICのリードに直接ハンダ付けして います。ICからはアースが三カ所出ています。一つは入力側のアースを直接つなぎ、 残りふたつは、それぞれ各チャンネルの電源バイパスコンデンサーにまずつないで から、電源のアースと三つのアースを1点で結んで、シャーシに落としました。 シャーシアースはICの取り付けねじを利用しました。皿ビスを使ったので、アースは きっちり取れています。TDA1552Qは、シリコンシートを介してケースに直接取り付け 放熱をしています。出来上がってみると、放熱は全く問題が無いようで、さわっても 熱くなっている感じはしません。

ケースはアルマイト加工をしてあるので、アースは取れにくいようです。ボリュームの 軸がアースから浮いていたので、利用しなかった空回り止めにアースをつないで 接地しました。

底面の写真
底面の写真

ケースの底はこんな感じです。ケースの肉厚が結構あったので、外に出るねじはすべて皿ビスにしてみました。上で書いたように、このお陰でビスにはアースが確実に取れています。

前からの写真 後からの写真
上蓋を開けて前後から望む

パネルにはインスタントレタリングは使わず、透明フィルムラベルにレーザー プリンターで印刷して貼り付けました(あまりスマートではありませんが)。 タイプセッティング用のソフトは、TeXを用いました。

結果

フロントパネルとバックパネルから見たところです。

恒例の、大きさの比較です。ポータブル・ヘッド フォンアンプと比べると、かなり大きく見えますが、実際は横幅17cmと小型です。

サイズの比較
CDジャケット、ヘッドフォンアンプと並べて。CDは、Shirley & Dolly Collins, "Anthems in Eden"

出来上がってスピーカーにつなぐと、トラブル無く音が出ました。 出力オフセットは、25mV と 6mVで、問題のない値です。データシートによると、 14.4Vの電源電圧、4オームの負荷でチャンネルあたり22Wの出力が出ることになって いるので、8オーム負荷でも10W強の出力は得られているはずです。ノイズは スピーカーからは聞き取れません(残留雑音くらいは測定できるといいのですが)。 電源オン・オフ時のポップノイズも気になりません(聞き取れません)。

反省する点ですが、上に述べた配線の不手際の他に、デザインの問題があります。 パネルの配置を左右逆にした方が、普通の様な気がします(ボリュームが右側で、 パワースイッチが左側)。ICの端子の配置から左右の配置を決めたのですが、 使い勝手を優先すべきでしょう。それから、リアパネルの入力端子の配置も、LとRの 順番がちょっと変になってしまいました(これは配線時の手違い)。もう少し小さく 作ってもよかった気がしますが、それは次回の課題と言うことにします。

とりあえず、コンピューターのサウンド出力を入力とし、おなじみフォステクスの「カン スピ」(FE87にボール紙製の箱を組み合わせたキット)につないで、 MP3で録音した音楽を楽しんでいます。

2003年8月15日 記.
2006年2月12日 修正.
Copyrighted by the author.