作ってから時間が無くて1年以上放っておいた 基板をケースに入れました。3個目のヘッドフォンアンプです。 回路は代わり映えしませんが、電源はトランスを内蔵し、据えおきで 使うことを想定しています。アンプ部はOPアンプひとつなので、ゼンハイザー HD600などのハイインピーダンス型のヘッドフォン用です。OPアンプには、 一応NE5532を用いましたが、電圧は十分あるので、デュアルタイプのOPアンプ ならだいたい何でも使えるはずです(NJM4580, OPA2134, OPA2604, OP275など)。
回路は、以下のような標準的なものです。
入力抵抗と帰還抵抗を10KΩとしたので、バイアス電流のバランスを取るために 帰還回路にコンデンサーを入れてACアンプの構成としました。NE5532 (あるいはJRCのNJM5532)は、Douglas Selfによるとオーディオ用OPアンプの最高傑作と言うことで、安価かつ高性能です。 極めて低ノイズで600Ω出力に対応する電流供給能力を持つ一方、入力バイアス電流が 多めなのに注意する必要がありそうです。プロ用、コンスーマー用を問わず広く用い られています(音質の評価については、人それぞれでしょうが...)。NE5532は電流供給 能力が結構あるので、出力抵抗の100Ωはもう少し小さくしても良いと思いますが、 OPA2134などを使うことを考えると、この辺の値が適当かと思われます。電源 はAC16Vを両波倍圧整流とし±22Vを得て、LM317/337によって安定化し、±15Vを OPアンプに供給しています。
以下が部品表です。
部品名 |
型番 |
数量 |
単価 |
購入場所 |
コメント |
---|---|---|---|---|---|
ケース |
タカチHEN110520S | 1 |
3000 |
エスエス無線 |
|
ユニバーサル基板 |
秋月AE-3 |
1 |
70 |
秋月電子 |
71×47mm |
VR1 |
アルプス ミニデテントボリューム 10KΩ2連 |
1 |
800 |
鈴蘭堂 |
|
照光式スイッチ |
ミヤマ電器 DS−850K−S−LY (BLACK) |
1 |
150 |
千石電商 |
赤LED内蔵 |
ツマミ |
1 |
700 |
鈴喜デンキ |
メタルφ25mm |
|
RCAジャック |
RJ-2008AT |
2 |
120 |
秋月電子 |
赤、白、各1 |
φ3.5ジャック |
マル信無線電機 MJ-073H |
1 |
70 |
千石電商 |
ステレオ |
C1,C2 |
無極性電解 10μF 35V |
2 |
20 |
同上 |
|
C3,C4 |
無極性電解 22μF 25V |
2 |
20 |
同上 | |
C5,C6 |
OSコン 22μF 20V |
2 |
80 |
同上 | |
C7,C8 |
電解コンデンサー 10μF 50V |
2 |
15 |
同上 | |
C9,C10 |
電解コンデンサー 1000μF 50V |
2 |
80 |
同上 | |
R1〜R8 |
1/10Wチップ抵抗 (金属皮膜) |
8 |
50/10 |
同上 | 0805(2×1.25mm) サイズ |
R9〜R12 |
1/4W金属皮膜抵抗 |
4 |
20 |
同上 | 1%級 |
R13 |
カーボン抵抗 |
1 |
100/100 |
同上 | |
U1 |
NE5532P |
1 |
140 |
同上 | TI |
U2 |
LM317T |
1 |
100 |
同上 | ナショセミ |
U3 |
LM337T |
1 |
200 |
同上 | ナショセミ |
D1,D2 |
10DF1 |
2 |
100/10 |
鈴商 |
日本インター |
ACインレット |
DELTA 03DEEG3B-R |
1 |
200(?) |
同上 | ノイズフィルター付 |
電源トランス T1 |
ノグチ PM1602 |
1 |
483 |
ノグチトランス |
16V 200mA |
その他、フューズホルダー、フューズ(0.1A)、ピンヘッダ、コネクタピン、 コネクタケース、基板スペーサー、ねじ類、などの小物がありますが、記録も ないので省略します。
ケースがなんと言っても最大の出費ですが、なかなか格好の良いケースです。 本来、放熱ケースと言うことで販売されているのですが、機械的にしっかりしてい るのが魅力的です。トランスは振動もあるので、YMケースでは心許ないかと思い これを使うことにしました。次に高価なのはミニデテントボリュームと、その ツマミです。外観や使い勝手に関わる部分が、どうしても高くなります。 整流ダイオードは何でも良いのですが、一世を風靡した日本インターの ファーストリカバリーダイオードが安く売られていたので、使ってみることに しました。ノイズフィルター付きのACインレットも、定価で買うと1000円近く する部品ですが、安く売られていたので試してみました(普通の部品との違いが 分かるかは疑問ですが、気分の問題ですね)。コンデンサーは、OPアンプの パスコンがOSコンである以外は、一般品を用いています。増幅部のカップリング コンデンサーは無極性電解です。後述するように、チップ抵抗を多用しています。 すべて秋葉原で購入したもので、入手の難しいものはありません。
最初に基板を作りました。こんな感じです。
左側からAC16Vを入力し、整流回路、3端子レギュレーター、 増幅回路の順に配置しています。信号は右端から入って、下側に出力されます。 電源整流回路と安定化電源、増幅部を、すべて71×47mmの小型ユニバーサル基板に 載せています。外部との接続はすべてヘッダピンとコネクターを用いて接続します。 配線面はこんな感じです。
この絵では、左側が増幅部で、チップ抵抗で配線しているのが見えます。 今回は、増幅部はすべてチップ抵抗にして、かなりコンパクトにまとめました。アース ラインは、銅箔テープを用いています(ハンダが乗りやすいように絶縁を紙ヤスリで はがし、必要に応じてハンダメッキをしフラックスを塗って配線しました)。増幅部の クローズアップを見ると、チップ抵抗の配線や、ブリッジ状の空中配線の様子が よく分かります(きれいな配線とは、お世辞にも言えませんが)。そろそろ肉眼では 確認が難しいサイズで、これを作った後で拡大鏡を買いました。
ケースのパネルは2mmあり、四角い穴の加工は結構大変なのですが、ハンドドリル、 リーマー、ヤスリで頑張って穴あけをします。このケースは保護用のビニールシートが 貼ってないので、セロハンテープを貼って線引きをし、穴開け加工を行いました。 穴あけが終わり、配線をした状態が次の写真です。
AC100Vの配線部分については、不用意に触って感電しないように、熱収縮チューブ (ヒシチューブ)でカバーしました(完全ではないですが)。手前に見えるプラスチックの 筒はフューズホルダーです。入力のRCAジャックからボリュームまでは、 電源トランスのすぐわきを通るのでシールド線を用いています。反対側から見た 増幅部分のアップが次の写真です。
シャーシアースは、3端子レギュレーターの足の部分から電源トランスの取り付け部に 落としています。ちなみに、ボリュームの金属部とシャーシの導通は、特に何もしなくても 取れていました。上から見るとこんなふうになっています。基板が小さいので結構スペースは 余っていますが、ACインレット、デテントボリュームなど大きめの外装部品があり、 なかなか小さくできません。また、あまり小さくすると、トランスからの磁気干渉も心配で、 電源内蔵にすると気を付けなければいけない事柄が多くなります。
組上がったところで、テスターでショートや接続不良をチェックします。特に 今回はAC100Vを用いるので、フューズをとばさないように念入りにチェック をしました。シャーシ・アースの導通についてもチェックし、測れるところは すべて期待通りの値になるかを確かめ、電源をつなぎます。まず、この段階で電圧 をチェックし、さらにスイッチを入れて各部の電圧を測ります。今回は何も 問題なかったのですが、出力に直流電圧が出ていたりする場合は、問題が解決するま で追求することになります。すべて順調だったので、まず安物のヘッドフォンを つないで音出しをしました。めでたく音が出たので、パネルにレーザープリンターで 作ったシールを貼って、いちおう出来上がりです(あまりシールはうまく貼れま せんでしたが)。
例によって、RMAA (RightMark Audio Analyzer)と M-Audio Audiophile 24/96の ループバックを用いて物理特性をチェックしておきます。測定結果は、ここにあります。 グリーンのカーブがアンプ無しのループバックの結果で、白のカーブが ヘッドフォンアンプを通した測定値です。予想通り、AC100Vからのノイズが 見えますが、-100dB程度(数十μV)で、全く問題のない値です。50Hzが結構 見えているのは、ラインからの飛び込みかも知れませんが、両波倍圧整流(正負 ごとには半波整流)を用いていることも影響しているかも知れません。 電池を用いた前のヘッドフォンアンプの、 AC100Vからの飛び込みよりも10dB程度低い値ですから、金属ケースにしたこ との方が電源を内蔵したことよりノイズへの影響が大きいことになります(でも、 やっぱり電源ノイズが見えるのは不満です。この程度の貧弱な測定系では見え ないようにしたいものです)。クロストークについても、予想通り高域での容量性の クロストークの劣化が見られますが、10KHzで-84dB、Aカーブによる補正後 で-99.7dBですから、まったく問題ない値です(これも前回のアンプより良好です)。 きちんと動作していることが確かめられた、という感じです。
今回のテーマは、「電源内蔵」と言うことと、「チップ抵抗を用いてコンパクトに作る」 と言うことでした。相変わらず実用機と言うよりは習作です。電源から のノイズが大きくなる可能性を危惧していたのですが、どうにか問題ないレベルに なりました(もちろん、ヘッドフォンでは全く聞こえません)。チップ部品 は、細かくて大変な感じもしますが(0805サイズならば)慎重に扱えばどうにか ユニバーサル基板でも配線できますし、回路がとてもコンパクトにできて、 いい感じです。秋葉原ではあまり入手し易くありませんが、価格の安い部品なので、 取り寄せても大したことはなく、いろいろ試してみたいと思っています。
とりあえず、ゼンハイザーのHD600をつないで使っています。とくに気になる点は ありません。音については、使っているうちに変わってくるでしょうし、気長に つきあおうと思っています。
余談ですが、しばらく更新がなかった間にDSLR(一眼レフデジカメ)を いじるようになりました。今回のページの写真もすべてニコンD70で撮影したも のです。写真が多くなって、少し重たいページになってしまいました。 ご容赦下さい。
2005年1月18日 記.